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どくしょへんれき

読書遍歴

三木 清

「文芸」1941(昭和16)年6月~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,120 字 · 72 页

青空文庫

特に氏によって私は当時の多くのドイツの青年をとらえていたあの不安の哲学とか不安の文学の中へ連れて行かれた。私もニーチェやキェルケゴールなどを愛読するようになり、ことにドストイェフスキーの小説を耽読した。その頃のドイツは全く精神的不安の時期であった。ヘルデルリンが流行するかと思うと、一方ではガンディなどが迎えられていた。また学生の間でも右翼と左翼との色彩がはっきり分れ、私どもでさえ外部からそれを見分けることができた。ハイデッゲル教授の哲学そのものもかような不安の一つの表現であると考えることができるであろう。教授の哲学はニーチェ、キェルケゴール、ヘルデルリンらの流行の雰囲気の中から生れたものであり、そこにそれが青年学生の間で非常な人気を集めた理由がある。レーヴィット氏もその時分デンマーク語を勉強して原典でキェルケゴールの研究を始めていた。ヤスペルスやマックス・シェーレルなどを読むことを私に勧めてくれたのも氏であった。氏はハイデッゲル教授と親しく、いわば教授の哲学の材料を材料のままでいろいろ見せてくれたのである。こういう教師というものは実に有難いものである。