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どくしょざっかん

読書雑感

岡本 綺堂

「書物展望」1933(昭和8)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,155 字 · 5 页

青空文庫

わたしは神田の三久(三河屋久兵衛)という古本屋へしばしばひやかしに行ったが、貧乏書生の悲しさ、読みたい本を見付けても容易に買うことが出来ないのであった。金さえあれば、おれも学者になれるのだと思ったが、それがどうにもならなかった。

わたしにかぎらず、原本は容易に獲られず、その価もまた廉くない関係から、その時代には書物の借覧ということが行われた。蔵書家に就てその蔵書を借り出して来るのである。ところが、蔵書家には門外不出を標榜している人が多く、自宅へ来て読むというならば読ませて遣るが、貸出しは一切断るというのである。そうなると、その家を訪問して読ませてもらうのほかはない。

日曜日のほかに余暇のないわたしは、それからそれへと紹介を求めて諸家を訪問することになったが、それが随分難儀な仕事であった。由来、蔵書家というような人たちは、東京のまん中にあまり多く住んでいない。大抵は場末の不便なところに住んでいる。電車の便などのない時代に、本郷小石川や本所深川辺まで尋ねて行くことになると、その往復だけでも相当の時間を費してしまうので、肝腎の読書の時間が案外に少いことになるには頗る困った。