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だれ

誰

太宰 治

「知性」1941(昭和16)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,545 字 · 17 页

青空文庫

そのひとは病人である。永く入院している様子である。退屈しのぎに日記でも書くような気持ちで、私へ毎日、手紙を書いているのである。だんだん書く事が無くなったと見えて、こんどは私に逢いたいと言いはじめた。病院へ来て下さいと言うのであるが、私は考えた。私は自分の容貌も身なりも、あまり女のひとに見せたくないのである。軽蔑されるにきまっている。ことに、会話の下手くそは、自分ながら呆れている。逢わないほうがよい。私は返辞を保留して置いた。すると今度は、私の家の者へ手紙を寄こした。相手が病人のせいか、家の者も寛大であった。行っておあげなさい、と言うのである。私は、二日も三日も考えた。その女の人は、きっと綺麗な夢を見ているのに違いない。私の赤黒い変な顔を見ると、あまりの事に悶絶するかも知れない。悶絶しないまでも、病勢が亢進するのは、わかり切った事だ。できれば私は、マスクでも掛けて逢いたかった。

女のひとからは次々と手紙が来る。正直に言えば、私はいつのまにか、その人に愛情を感じていた。とうとう先日、私は一ばんいい着物を着て、病院をおとずれた。死ぬる程の緊張であった。