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ろんごとバイブル

論語とバイブル

正宗 白鳥

「読売新聞」1904(明治37)年10月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,417 字 · 5 页

青空文庫

人間に備わる五官の慾望を円満に満足させ、現世の幸福を極度まで楽んだ、吾人が理想に近い国であったらしい。

剣菱茲に論語、聖書の中より二三節を抜摘して、公平なる批評を加えて、孔子や耶蘇が何れ程利口な事をいったか研究して見よう。昔からこの二つの書は註釈や批評が無限であって、一字一句の研究にも幾多の人間を苦しめ、色んな騒動まで起して、殊にバイブルの如きは、人間の罪悪を救い、祝福を来すと自慢しながら、其の解釈の争いから悲惨な事件が起って人間の不幸を醸した。耶蘇自身は己の知ったことじゃないというかも知れぬが、こんな争論の種ともなる曖昧の言論を播いた責任は免れようがない。

山上の垂訓は耶蘇の道徳観を述べ尽したのであるが、不条理の点が多い、第一「貧しき者は幸なり。」とは会得出来ぬ言だ。自殺するのも、人殺しをするのも、泥棒をするのも貧乏の結果たることが多い。耶蘇教信者とても会堂を建てたり伝道をするにも先立つ者は金ではないか、或いは貧乏しなければ天に手頼る気にならぬとコジ付ける人もあれど、金がないから止むを得ず、神様に縋って慰めようというのならば、其の反面には、金があれば神や仏はどうでもよいという意を含んで来る。