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ひょう
豹
山本 周五郎
「アサヒグラフ」1933(昭和8)年9月20日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,656 字 · 14 页
こうした兄の性格に、嫁でもとったら――という望みをかけていた父は、兄に負けぬ派手好きな嫂の暮しぶりをみて、一政の生れる前すでに、
――正一の家とは付合うな。
と云わせてしまった。
汽船会社の社員などに、父流の質素な生活を望むことは無理なのだ、ことに兄のようにとんとん拍子の出世をするような者には、生活の贅沢さくらいなんでもないはずなのだ、正三はいつも、そう弁護をしていたが、そのとんとん拍子の出世ということを極端に軽蔑していた父の気持を、やわらげることはできなかった。
――いまにきゃつは身が詰るぞ、そのときがきたらおれの言葉が分るだろう。
そう云っていた父の予言が、不幸にも適中したのである。
兄の死後、半年めに父から嫁の離籍のことが問題になった。当時まだ二十六で、一政を生んで以来驚くほど美しさを増していた純子は、当然離籍を承諾するものと思われていたが、一政の成人まではどんなことがあっても久良の家を出ないと、頑強にはねつけた、これは父にとって少からず意外だったらしい。
――ふん、久良家の財産が欲しいのだろ。
口では軽く冷笑していたが、心の中では老学者らしく嫁の態度を貞嬬の節と解釈したのであろう、それ以来嫁に対する感情が少しずつ溶けていった。