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かいなべのうた
貝鍋の歌
中谷 宇吉郎
「文藝春秋」1961(昭和36)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,770 字 · 4 页
酔い心地も、まず申し分がない。
毎度のことで、われながら少し気もひけるが、細君に筆と紙の用意をさせ、貝鍋を中心に、雑然たる食卓の風景を、墨絵に描く。そして口から出まかせの賛をする。初めにあげた、詩とも、だじゃれともつかぬ妙な文句は、こういうときに書きそえた賛の一例である。
家族が東京へ移ってからは、北海道の貝鍋とは、縁が切れた形である。東京でも、まれには、貝鍋をするが、どうも中身が上等すぎるうらみがある。しかしそれでも、貝鍋にはやはり特殊の風味があって、私は好きである。
同じような鍋ものを、アルミの鍋でやったのでは、ぜんぜん問題にならない。土鍋はアルミからみたら、ずっとよいが、それでも貝鍋には、はるかに及ばないような気がする。心理的なものかもしれないが、ひょっとしたら、貝鍋から、何かその組成の成分がとけ出て、あの特殊な味をそえるのかもしれない。
貝殻の主成分は、もちろん炭酸カルシウムであって、加里や燐酸塩も、少しはいっているが、それはごく微量である。ナトリウムも少量あるが、これは加える食塩の方が、ずっと多いから、問題にする必要はない。一番考えられるのは、カルシウムであるが、これは煮ているうちに、汁の中にとけ出る可能性は、じゅうぶん考えられる。