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ひんぷこうふこう
貧富幸不幸
幸田 露伴
「現代」1923(大正12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,021 字 · 12 页
他の一人は貧家の出というほどでも無いが貧者を憐愍して、つくづく貧者を幸福にしたいと思った。そこで自分の托鉢する場合には貧者の家をのみ択んで立って、伝道化度の好因縁を造ろうとした。富貴の門はその顧るところで無かった。二人とも道理のある考で有り、美しい感情の流露であった。しかし釈迦は二人を弾可した。それは傾かんよりは平らかに、私有らんよりは公に、貧富を択むの念に住せずして平等に化度したが宜しいという意に於てであった。これは勿論もっともの事で、人天の導師、一代の教主たる以上はこう無くては叶わぬ筈である。釈迦の親族で、無論高貴の種姓で、そして二十相好を具えたと云わるる美男で、かつまた心の優しい、しかも道に進むの望を有して弟子となっていた阿難は、この事を目撃して、成程貧富を平等に視なければならぬと考えたので、如何なる家をも択ぶこと無く接近した。ところが阿難はまだ前の二人の弟子にも劣っていた境地の身分であった。ただその所行のみが釈迦の言を実現したのだった。そこで偶然に最も鄙しい種族の家をおとずれると、忽ち其家の女に惚れられてしまった。貧富の前に大手を振って歩いたのは可いが、恋という変な者に掩撃されたので、鉛の獅子が火に逢ったように忽ちぐにゃりとなってしまって、捕虜にされて危く自体を失わんとするに至った。