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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

「綾様、こりゃどこのお婆様。」

綾子は堪らず、「あれえ!」と血を絞る声を立てられしが、衝と座を立ちて駈出だし、一室の戸を内より閉じて、自らその身を監禁せり。

貞子の方はいと不興げにそのまま帰らせたまいける。綾子は再び出で来らず、膳を進らせんと入行きたる下婢のお松を戒めて、固く人の出入を禁じぬ。

その後室内沈静にして、些々たる物音も聞えぬ事あり、時ありては畳を蹴立てて噪がしき響の起る折あり、突然、きいーきいーと悲鳴をあげて、さもくやしげに泣く音も聞ゆ。

「ああ、申訳のない事だ、御主人は女性なり、我が一家を預りながら、飛んだ悪魔をお抱えあるを諫めなんだが不念至極、何よりもまずこの月の入用をまだ御手許から頂かぬに、かの悪魔めが食道楽、通帳で取込んで借が山のごとし、月末にどしどし詰懸けられると、なんぼむこうが平民でも、華族じゃからって払わぬわけには行かぬ。十重二十重に囲まれては、老功な武者でも籠城がしにくいぞ。ええ情ない、お家の没落を見てどうしておめおめと生きておられよう、先殿への申訳、まッこの通り。」

と、三太夫はお丹へのつらあてに、眼鏡を懸けて刀を選出し、座を構え、諸肌脱ぎ、皺腹に唾をなすり、白刃を逆手に大音声、「腹を切る、止めまいぞ、邪魔する奴は冥土の道連、差違えるぞ、さよう心得ろ。