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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

」「ほんとうかい。」「何、嘘をいいますものか。」「嬉しいねえ。」と光子はいそいそ。

「そのかわり、今夜の中にどんな恐しい事がありましょうとも眼を塞いで我慢なさい、過日お茶の水で身を投げて死のうとなすった、その気でね。」と意味ありげに言含め、「そこでの、黒瀬の婆様を葬ってやろうと思って用意をしたお棺はね、ちと道具に使用処がある、後でここへ持たしてお寄来し。」

屠犬児は怪みて、「それじゃ死体はどうなさいます。」「あれはね、筵に包んで担ぎ出して、番町の小浜という邸へ行って、玄関見附に大きな松の木があるから好さそうな枝を見繕って、ぶら下げて来るように、権と八に一役おつけ。」「はて怪しからねえ。何のためだね。」「ちと思わくのあることさ。光子様は私と一所に、地獄で妙な人に逢わせるよ。」

先刻に兇徒の手籠に逢いしは、黄昏の頃なりき。されば早や夜ならむ、居る処は、天か、地か、はたまた土蔵か、穴蔵か、眼は開きたれども一物を弁ぜず、闇きことあたかも盲せるごとくなるに、老婦人はただ自失せり。

されど心豪にして気韻高き性なれば、はしたなく声を立てず、顛倒して座を乱さず、端然としていたまえり。