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ひんみんくらぶ

貧民倶楽部

泉 鏡花

「北海道毎日新聞」1895(明治28)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,333 字 · 111 页

青空文庫

渠がこの家に来りし以来、吉造垢附きたる褌を〆めず、三太夫どのもむさくるしき髭を生さず、綾子の頸も撫ずるように剃りて参らせ、「あれ、御髪が乱れております。お気味が悪くも撫附けましょう。」とは、さてもさても気の着いた、しかも無類の容色好し、ただ眼中に凄味を帯びて、いうべからざる陰険の気あり。「ああッ凄い。」と吉造無暗に嬉しがり、三太夫は人相早学を眼鏡で覗き、「なる程、ただものでない相じゃ。」

日数経れども旧を忘れず、身を謙りてよく事うるまたなき心を綾子は見て取り、一夜お傍近く召したまいて、「妙なことを訊くようだが。……」と言淀みし声を密め「お前、子を持ったことがあるのかい。」

婦人は冷かなる眼をぱっちり、綾子は射られて慄然とせり。微笑を含みて、「はい、お薬も存じております。」

「嫌なことをいう人だ。」綾子はその無礼を怒りて顔を背けつ、机に凭りぬ。

一家声なし、雨蕭々。

翌朝になると三太夫、婦人を呼附け、言葉も容子も改りて、「暇を遣る。」と藪から棒。

婦人は愕きたる状にて、「何ぞ不調法でもいたしましたか、誠に行届きません不束者、お気に入りませぬ事がございましたら、そうおっしゃって、どうぞ御勘弁下さいまし。