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あかいて
赤い手
国枝 史郎
「探偵」1931(昭和6)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,057 字 · 21 页
やがて今宵の目的物が眼に映った。それはサディが云った通り室の端れに――グロテスクなチーク材の彫像が立っていた。
その彫像を予てから欲しがっていた胡買者のシモン・スヌッドはスパイダーに話を持ち掛けた。
「手に入ったら、お前には五千弗出すぜ」とスヌッドは約束した。
スパイダーに取ってはそれだけでも充分だった。併し巧くゆけばもう少し位出させることは出来るかも知れないし、スヌッドにしても愈現実に手に入るとなれば分前の高を増して呉れるかも知れない。だが、そんな事は後で何うにでもなる、それより今は代物を手に入れることが肝心だ、とスパイダーは考えた。
彫像が楽に持運びが出来る程の大きさなのを見てとると、彼は安心してにやりと微笑した。それは床から五呎許りの壁に設えた龕の中に納められてあった。淡い間接照明の光は、奥深い洞穴の様な感じを与えていた。所が龕の直ぐ前には長楕円形の金魚鉢があったので、スパイダーは先ずこの鉢を除けてからでなければ彫像に手を触れることは出来なかった。
よく見ると鉢の中の金魚は拵え物だった。
「ちぇッ」彼は忌々しそうに舌打した「だが器用に出来てるなあ。