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あかいかしゃ

赤い貨車

宮本 百合子

「改造」1928(昭和3)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页

青空文庫

あててごらん! 女中がつれて帰れるらしいのです。いまのモスクワで、身許のはっきりした田舎出の女中は、人造絹糸でない絹ものと同じくらい珍しいじゃあないか。大して気は利きそうもないが、お前も知っているサーシュカね、あれのように、またたく間に三本も赤葡萄酒のびんをひろくもないユーブカの間へちょろまかすような芸当のないのもたしからしい(孤児だから面倒でないし、辛棒もするでしょう)もし――

アンナ・リヴォーヴナは、もしお前の方で欲しければと書きかけたのを消し、

――もし眼鏡ちがいでなかったら、どうぞお前もよろこんでおくれ」

と結んだ。

下宿の夕飯後、大きな鏡のある客間の長椅子で、アンナ・リヴォーヴナは手紙のその部分を面白そうにニーナや技師の妻ユリヤ・ニコライエヴナなどに読んできかせた。(彼女の左の手首から下っている袋のなかにある、手紙のもう一枚の方には、ユリヤ・ニコライエヴナの夫である頭の禿げた電気技師が、妻の留守の夜、どんなにバタンと閉めた戸をまたそっと開けてニーナの部屋へ忍んで行ったか、翌日二人がどんなに人目をかまわず、食べかけたパイを皿ごととりかえっこして食べたか恐ろしい事実を書いてあるのであった)