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あかいかしゃ

赤い貨車

宮本 百合子

「改造」1928(昭和3)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页

青空文庫

ナースチャは不器用に手をのばして、リザ・セミョンノヴナの膝にさわって云った。

「悪く思わないで下さい」

リザ・セミョンノヴナは、それでもやっぱり黙っていた。

ナースチャがもらって来た書類は、二つ折になって食堂の棚の上にのったまま受難週間になった。

建物の中庭へ荷馬車が入って来た。そして、雪の下から現われた去年の秋からのごもくたを運び去った。黒い湿った地面が出た。人はまだ冬外套を着て往来を歩いていたが、日が当ると、中庭の黒い地面からはものの腐る温いにおいがした。それは春の匂いであった。日に数度借室のだれかが、中庭で絨毯をたたいた。張り渡した綱にたたいた絨毯を干して、建物のそばのベンチに子供をかけさせておいた。子供は犬と戯れつつ、あるいは建物の四階の窓からリボンをつき出している友達と声高にしゃべりつつ、絨毯の番をした。中庭の光景のあちらの空に芽ぐんだばかりの緑色に煙る菩提樹の大きな頂が見えた。煉瓦の赤い建物がそこにあるので、菩提樹の柔い緑色は一そう柔く煙のように見える。

アンナ・リヴォーヴナは借室へ床磨きをよんだ。復活祭まで床磨き人は、権威ありげに口をきいた。