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あかいかしゃ
赤い貨車
宮本 百合子
「改造」1928(昭和3)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页
わたしのところへ犬をよぶんです」
リザ・セミョンノヴナが室へ戻ると、ナースチャは茶を運んで来た。彼女はもう泣いていなかった。リザ・セミョンノヴナが机の前に坐り、茶を飲んでいる間、ナースチャは、いくたびか黙ろうとしながら黙り切れず、訴えた。
「あの人たちは盗まれたものがあまり惜しいので、わたしが盗んだなんて云うんです。犬が来たって、わたしどこの隅でも、靴の底まで嗅がせます。平気だ」
ナースチャの涙がとまったが、昂奮でいまはかすかに胴ぶるいしているのが見えた。
「ただ、ね、リザ・セミョンノヴナ、わたしはもう八ヵ月近くアンナ・リヴォーヴナのところで働いた。アンナ・リヴォーヴナはわたしが不正直でもおいたでしょうか? それだのに、いまになって盗んだなんて云われるの、口惜しいんです」
リザ・セミョンノヴナは、苦笑いして、
「じゃ、わたしも犬に嗅がせなけりゃなるまい」
と云った。
「ゆうべ、一緒にあんなところへ行ったんだから」
「あなたは知らないけれど、オルロフは、いつだって机の上に細かいお金をばらで出しとくんですよ。なぜ? わたしは知っています。オルロフはわたしを試しているんです。