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あかいかしゃ

赤い貨車

宮本 百合子

「改造」1928(昭和3)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,168 字 · 71 页

青空文庫

「ねえ、こういうのがロシア語では機会均等と云うのでしょうか?」

アンナ・リヴォーヴナその他の女たちは、黙って払い下げ品ロマノフ家紋章入りの皿から氷菓と一緒にこまこました思いを飲み下した。例えば、八十五ルーブリ――しかもそれがやっと歩合でとれる金で、どうして夏だからと云って下宿へ来て、二週間に八十四ルーブリ払えるであろう?(または)毎朝毎朝ああやって目先をかえて出て来る着物は、どういう工面で出来ることやら――

女のいう二箇国語の知識や金牌やらが信じられぬ存在になるのであった。

電気技師だってそれらを信じるというのではなかった。ただ一ヵ月に取れる金の八十五ルーブリと二週間に出せる金の八十四ルーブリとの間にある矛盾が、漠然と遠くない過去、資本主義時代のペテルブルグ生活を思い出させ、女が、わたしの夫、わたしの夫と云う職業も不明な夫が複数の感じで彼に映るのであった。その朝、タタール風な頭の電気技師は妻君より早く起きた。来年銀婚式をするべき妻君のユリヤ・ニコライエヴナが小さい義歯にブラッシをかけている間に、彼は今朝はバラ色のなりの女と公園の奥を散歩した。技師だけ妻君の室に戻り、再び夫婦で食堂へ降りた時、玄関から真直食堂に入っていたバラ色のニーナは待ちかねていたように立ち上って、まず妻君の手を握った。