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あかいへや
赤い部屋
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1925(大正14)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,114 字 · 36 页
誰も物を云わなかった。私は蝋燭をすかして、向側に腰掛けた人達の赤黒く見える影の多い顔を、何ということなしに見つめていた。それらの顔は、不思議にも、お能の面の様に無表情に微動さえしないかと思われた。
やがて、今晩の話手と定められた新入会員のT氏は、腰掛けたままで、じっと蝋燭の火を見つめながら、次の様に話し始めた。私は、陰影の加減で骸骨の様に見える彼の顎が、物を云う度にガクガクと物淋しく合わさる様子を、奇怪なからくり仕掛けの生人形でも見る様な気持で眺めていた。
私は、自分では確かに正気の積りでいますし、人も亦その様に取扱って呉れていますけれど、真実正気なのかどうか分りません。狂人かも知れません。それ程でないとしても、何かの精神病者という様なものかも知れません。兎に角、私という人間は、不思議な程この世の中がつまらないのです。生きているという事が、もうもう退屈で退屈で仕様がないのです。
初めの間は、でも、人並みに色々の道楽に耽った時代もありましたけれど、それが何一つ私の生れつきの退屈を慰めては呉れないで、却って、もうこれで世の中の面白いことというものはお仕舞なのか、なあんだつまらないという失望ばかりが残るのでした。