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あかいらくだ

赤い駱駝

梅崎 春生

「世界」1948(昭和23)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,820 字 · 24 页

青空文庫

いずれ本土上陸ということになれば、さしずめここらが真先に戦場となるわけだった。しかし洞窟生活は憂鬱だったな。湿気は多いし、ことに七、八月ともなれば手荒くむし暑いしさ。一日中気がいらいらして、落着かない。頭をぐっと押しつけられているような気がする。士官室にいても(もちろん洞窟のなかの)ふつうの話し声も険を帯びてきて、時には罪もない従兵がひっぱたかれたりするんだ。こういう気分になると、人間は自分のこと以外はあまり考えなくなるようだな。自分を他人とむすびつけているものが、なにか贋物みたいに見えてくるんだ。この部隊で、おれたちはこんな具合にくらしていた。いつ敵が上陸して、ここが戦場になるのかなどと、考えてみたり、忘れようとしてみたりしながら。

しかしあそこは、夕焼がひどくきれいな海岸だったなあ。夕食がすむとおれはときどき海岸に出て、夕焼をながめたりしたもんだ。空の央ばをおおう、言いようもなく微妙で華麗な色の饗宴が、海に照り映えて、すこしずつ色合いをかえてゆく。それを眺めていると、自分がどこからか脱けだして、遥かな遠いところへ行くような気がするんだ。しかしその時間も、十分間ぐらいなものだ。