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あかいらくだ

赤い駱駝

梅崎 春生

「世界」1948(昭和23)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,820 字 · 24 页

青空文庫

こいつはやはり経験した者じゃなければ、この味は判らないだろ」

このちょび鬚を立てた特務中尉は、おれたちの顔を見廻しながら、すこしばかり得意そうな表情でこの話をむすんだ。この中尉は割に気のいい男で、おれは好きだった。中学校に行っている子供がいるという、邪気のない男だった。こんなのは特務士官にはめずらしい。ふつう海軍の特務士官は、みょうにひねくれたところがあって、おれたち一夜漬けの予備士官にへんな反感をもっていたもんだ。考えてみると、それも無理ないやね。こちらは一年やそこらの訓練だけで、実際にはろくな仕事も出来やしないのに、けっこう一人前の士官づらをしているんだ。十年も十五年もこの道でたたきあげた彼等にすれば、どんな点からも、腹が立って仕方がないことばかりだろう。けちをつけたい気持もわかるよ。しかしおれは何も好きで海軍に入った訳でもなし、どのみち消耗品として死なねばならぬことは判っていたんだから、あまり気にもしなかった。つまりおれたちは小姑の多い家にきた嫁みたいなものよ。本気でいじめる気持がなくても、自然とあらさがしみたいになるんだ。だからおれたちの中でも、一番あらの多い奴がつらくあたられたんだ。