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あかいらくだ

赤い駱駝

梅崎 春生

「世界」1948(昭和23)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,820 字 · 24 页

青空文庫

あれほど運動神経の欠除した二見が、士官としての自分を保つのに費やした神経の量を思うと、おれはいつも暗然となる。あいつは軍隊の一年間に、ふつうの二十年分ほども生きたのだ。士官教育のときから一緒だったから、おれは二見がそうなるまでの経過をよく知っている。あいつほどヘマをやり、そして叱られた同期生はいやしない。そしてあいつほどむきになって、自分を軍隊式にねじまげようとした男は。

しかしその努力が、さっきも言ったように、彼には正反対の結果としてあらわれてくることが多かったのだ。たとえばあまりの緊張のあまり、「かしら右」と言うところを「右へならえ!」と叫んでみたりするんだ。そして隊長から眼玉の飛びでるほど叱られたり、下士官兵の笑いを買ったりするのだ。仕事の上ででも、そんなヘマをしばしばやるから、兵曹長などがやってきて、ツケツケと文句を言ったりする。そうすると二見は、直立不動の姿勢でその文句を聞くのだ。そうするのが当然の義務のような、緊張した表情で。少尉の二見が、兵曹長の前でだよ。おそらく兵隊が文句をつけにきても、二見は直立不動の姿勢で聞いたかも知れない。軍隊の、下階級は上階級に絶対服従だという考えなりシステムなりを、もちろんあいつはよく知っていたにちがいないが、自分のそとのものとしか感じられなかったんだ。