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あかひげしんりょうたん

赤ひげ診療譚

山本 周五郎

04 三度目の正直

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,351 字 · 43 页

青空文庫

藤吉は盃をぐっと呷った、「けれども、つまるところはこっちの負けです、辛抱比べではてんで勝負にはならねえ、あっしはいなばへ掛合いにいきました」

それは普請の引渡しをする二三日まえのことで、おせいは承知をし、猪之と二人で話したいと云った。

おせいのほうでも猪之が好きで、猪之さんのような人となら苦労をしてみたいと、「まえから片想いに想っていたんですよ」などと云うのであった。

――いい面の皮だ。藤吉はその話を猪之に告げてから云った。まるで人ののろけの使いをするようなもんだ、自分で自分のお人好しにあいそがつきたぜ。

――済まねえ、と猪之は頭をさげた。

――御挨拶だな、それっきりか。

――まったく済まねえ。

見ると猪之はしらけた顔で、はずんだようなようすは少しも感じられなかった。いって話して来い、と藤吉は云った。もう二三日すると江戸へ引揚げるんだ、いそがねえと置いてっちまうぜ。うん、そうしよう、と猪之は答えた。そうしよう、いってあいつと話して来よう。

「猪之はでかけてゆきましたが、半刻ばかりすると帰って来て、おれはこれからすぐ、一と足先に江戸へ立つ、と云いだしました」