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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
06 鶯ばか
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 页
「なん刻ごろだ」
「八ツ半です」と卯兵衛は寝衣の衿を掻き合わせた、「弥平の女房がお迎えに来ていますが、いって下さいますか」
「うん、着替えよう」登は立ちあがった。
待っていたのは、弥平という縁日あきんどの女房で。名はおけい、年は四十二、三になっていた。彼女は五郎吉一家と隣り同士であり、かれらの心中を発見したのもおけいで、それ以来ずっと付きっきりで世話をしている。男まさりで向っ気が強く、幾人かの女房たちをてきぱきと指図しながら、子供たちの死躰の始末から、残っている五郎吉夫婦と長次の面倒をみ、さらに湯茶のことまでぬかりなくやってのけていた。ただ登の閉口したのは、彼女がおそろしくあけっ放しで、これまでかつて聞いたためしのないほど、乱暴な口をきくことであった。
――なんだいその腰っつきは。
五郎吉の寝床を片よせるとき、向うの端を持った女房の一人に、おけいは男のような声でどなった。
――そんな腰っつきじゃあ××も満足にできやしめえ、もっとそのけつをあげな、けつを。
そのとき登は頬が赤らむのを感じたものである。だが、いま提灯で足もとを照らしながら、登を案内していくおけいは、人が変ったように温和しく、しょんぼりとしていた。