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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
06 鶯ばか
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 页
と訊いた。
「あいつには手をあげました」卯兵衛はうんざりしたように云った、「長屋を追い出すんなら、五郎吉一家の心中、子供四人の死んだことを町方へ訴えて出るってんでね、――あいつのことだからやりかねませんや、そんなことになれば長屋じゅうの迷惑ですからね、みんなにも因果を含めて、とうとうそのままということになったんです、いやもう、まったくたいした女があったもんでさ」
登は胸がむかついて来た。その胸のむかつきかられるように、十兵衛のようすを診よう、と彼は云った。
おみきは立って茶の支度にかかり、十兵衛はいつものところに坐ったまま、じっと鴨居を見あげていた。初めのころより肥えたらしく、肩などまるまるとしていたし、頬などもずっと肉づいていた。登は側へいって坐り、ぐあいはどうだ、と云いかけたが、すぐ十兵衛に「しっ」と制止された。十兵衛は鴨居のほうへそーっと耳を傾けた。そうして、静かにそっちを指さしながら、登に向かって頷いた。
「聞いてごらんなさい、いい声でしょう」と十兵衛はたのしそうに云った、「この鶯は千両積んだって売れやしません、なんていい鳴き声でしょうかね、あの囀り、――心がしんからすうっとするじゃありませんか」