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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
06 鶯ばか
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,626 字 · 45 页
「おまえさん方は私を気違いだと思っているんですね」と十兵衛は憐れむような口ぶりで云った、「お気の毒だがそれは見当ちがいだ、私は生れてこのかたいちどもお医者の世話になったことのない人間ですからね、こんなことをなすってもまるっきりむだですよ」
そのとき戸外で「やあい泥棒」という子供たちの声がした。三人か四人で囃したてているらしい、「長次のぬすっと」とか、「長の野郎やっつけちまえ」などと叫び、がたがたとどぶ板を踏み鳴らす音が聞えた。
「またやってやがる」上り框にいた卯兵衛は舌打ちをして云った、「どうしてああ長ばかりいじめるんだか、しょうのねえがきどもだ」
そして路地へと出ていった。
診察を終った登は、去定に向かってそっと頭を振った。去定は鴨居のほうを見あげた。すっかり昏れてしまったらしいし、行燈が煤けているため、家の中は陰気に暗かった。貧しい家具に仏壇、ほかには大きな角張った包み(商品であろう)が三つ積んであるだけの、がらんとした部屋の一隅の鴨居に、渡してある板と、その板の上に伏せてある目笊とが、ぼんやりと見えていた。
「あそこに」と去定は十兵衛に訊いた、「あの目笊の中にはなにがいるんだ」