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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
02 駈込み訴え
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,864 字 · 44 页
――その部屋は北向きの四帖半で、ずっと六助が泊っていたのだというが、唐紙も障子も古く、切り貼りだらけで、唐紙のほうは大きく裂けており、風のはいるたびにばくばくと波を打った。畳はすっかり擦りきれて、ところどころ芯の藁がはみだしているし、壁も剥げ落ちていた。いくら木賃宿だとしても普通ならもう少しはましであろうが、それは伝通院裏という、あまり泊り客もなさそうな場所がらによるのだろう、いかにもさむざむとうらぶれたけしきにみえた。
登はともの診察をしながら、金兵衛の話を聞いた。ともは風邪をこじらせたらしい、熱が高く、ときどき咳が出るほかには、これというほどの病兆はみられなかった。ただ、いかにも栄養が悪く、――これは弟や妹も同様であるが、このままでゆくと労咳になる危険が多分にあると思えた。登はともの額を冷やすことと、部屋を温めて風を入れないようにすること、汗が出るから寝衣を替えること、などの注意を与えた。
「ごみは窪地に溜るとはよく云ったものですな」と金兵衛は溜息をついた、「もう何年もこっち、しょうばいが左前で、伜は日雇いに出るし、女房や娘は内職をしなければおっつかない始末です、それなのに絶えずこんな厄介なことを背負いこむんですから、よそにはもっと繁昌して、金を溜めこんでいるうちが幾らもあるというのに、私どものような