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あかひげしんりょうたん
赤ひげ診療譚
山本 周五郎
02 駈込み訴え
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,864 字 · 44 页
母は富三郎を親類の者だといった。
おくにはむろんそれを信じた。かれらは京橋の炭屋河岸に住んでいたが、六助の店が日本橋槇町にあったので、芝の神谷町裏へ移り、そこで小さな荒物屋をはじめた。しかし店をやるのは富三郎で、母親はかよいの茶屋奉公に出ていた。――これもあとで知ったことだが、母と出奔したとき、富三郎は十七だったそうで、母は七つも年上だったから、それ以来ずっと男をやしなって来たものらしく、そのため富三郎は怠け癖が身についてしまったのだろう、おくにがいっしょになってからは、店番をおくにに任せて、一日じゅう遊び歩いたり、昼から酒を飲んでごろ寝をする、というふうであった。
母と富三郎の関係を、おくにはまったく知らなかった。単純に親類の者だと思い、それにしてもなぜ働かないのか、どうしてぶらぶら遊んでいるのか、なぜ母はそれを黙って見ているのか。そんなことが腑におちないだけであった。一年ちかく経って、おくにが独りで店番をしていると、ふいに父親がはいって来た。おくにはそれが父親だと知って、逃げようと思ったが、怖ろしさのあまり身動きができなかった。
「お父っさんはあたしに、うちへ帰ろうと云いました、いまでも覚えています、お父っさんは蒼い顔をして、むりやりにやさしく笑いかけながら、いっしょに帰ってくれ、おくに、おまえはおれ