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あかごうしくろうえもん
赤格子九郎右衛門
国枝 史郎
「中学世界」1924(大正13)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,484 字 · 29 页
利休は武士の手元を見た。と彼は「あっ」と声を上げた。関白殿下より預けられた楢柴の茶碗で悠々と武士が茶を立てているからであった。
「曲者!」と利休は声を立てた。しかし其声は口の中で消え四辺は寂然と静かである。彼は襖を引き開けた。それは開けたと思ったばかりで、依然として襖は閉ざされている。不動の金縛りにでも逢ったように、動くことも声を立てることも出来なかった。
其間に武士は悠々と忙かず周章てず茶を立て終えて、心静かに飲み下した。作法に従って清め拭うや、徐に茶碗を箱に納め、ふと利休の方へ顔を向けたが滴たるような笑い方をし、それからすらりと立ち上がり、二三歩足を進んだかと思うと、朦朧と姿は消えたのである。
二
その翌日のことであるが、利休は秀吉に謁を乞うた。二度の不思議を物語ってから、斯う云って彼は付け加えた。
「最初は狐狸かとも存じましたなれど、殿下お手付けの名器を恐れず、悠然茶を立てた振舞いは、大胆過ぎて正しく人間、恐らく無双の忍術家と、目星をつけましてござりますが……」
「解った」と秀吉は性急に云った。「草を分けても探がし出し、引捕らえて罰せずばなるまいぞ!」