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あかごうしくろうえもんのむすめ
赤格子九郎右衛門の娘
国枝 史郎
「ポケット」1925(大正14)年2月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,174 字 · 33 页
「すこしどうも睡り過ぎるようだ。……毎晩お前の立ててくれるこの一杯の薄茶を飲むと、地獄の底へでも引き込まれるようににわかに深い睡眠に誘われ、そのまま昏々睡ったが最後、明けの光の射す迄はかつて眼を覚ましたことはない」
「まアお殿様、何を有仰ります」
お菊は柳眉をキリリと上げた。
「何か妾がお殿様へ、毒なものでも差し上げるような、その惨酷い仰せられよう。あんまりでござんすあんまりでござんす。……それほど疑がわしく覚し召さば一層お暇を下さいまし。きっと生きては居りませぬ。淵川へなりと身を投げて……」
「ああこれこれ何を申す。……何のお前を疑うものか。暇くれなどとはもっての他じゃ。手放し難いは老後の妾と、ちゃんと下世話にもあるくらい、お前に行かれてなるものか。……とは云えどうもこの薄茶が……」
「お厭ならお捨なさりませ」
お菊はツンと横を向いた。
「アッハハハ、また憤ったか。そう老人を虐めるものではない。せっかくお前の立てた薄茶、捨るなどとは勿体ない話。どれそれでは。いいお手前じゃ」
指で拭って前へ置き、その指を懐中の紙で拭いた。ともう睡気に襲われるのであった。
「プッ」