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あかごうしくろうえもんのむすめ

赤格子九郎右衛門の娘

国枝 史郎

「ポケット」1925(大正14)年2月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,174 字 · 33 页

青空文庫

「人を避けて籠っていたが、今夜は気分がよいと見えて、あのように唄をうとうている」

卜翁は機嫌よく呟いた。

とミシリと音がする。

「お袖ちょっと見て参れ!」

「はい」と云って立ち上り廊下の方へクルリと向く。背後姿に眼を付けた卜翁。

「おっ! 白糸!」と声を上げた。

とたんに「エイッ」と鋭い掛声。障子を貫いた削竹がお袖の喉に突立った。

やにわに刀をひっさげて。

「曲者!」と卜翁は飛び上る。

「あッ」という苦痛の声。続いて「むう」と云う唸り声が廊下にあたって聞こえてきた。

颯と卜翁は障子を開けた。その眼前の廊下の上にのた打っているのは忠蔵である。我と我喉を削竹で裏掻くまでに突き刺している。片手にもったは封無しの書面。「ご主人様へ」と血で書いてある。

卜翁はつと取り上げた行燈の燈で読んで行く。

――こういう意味のことが書かれてある。

我は賊でございます。海賊赤格子九郎右衛門の娘本名お粂、今の名はお菊、すなわち殿様のご愛妾、お菊殿の一の乾児、海蛇の忠蔵とは私のこと。殿様のお命を害めんためお菊殿共々お屋敷へ住み込み、機会を窺って居りました次第。とは云え性来の海賊ではなく産れは播州赤穂城下、塩田業山屋こそは私の実家でござります。