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あかごうしくろうえもんのむすめ

赤格子九郎右衛門の娘

国枝 史郎

「ポケット」1925(大正14)年2月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,174 字 · 33 页

青空文庫

「…………」

「妹お袖へお話し下されたお殿様のお話で初めて知りましてござります」

この時、遥かの海上に当って、吹き鳴らすらしい法螺の音が、夜気を貫いて陰々と手に取るように聞こえてきた。

一方、こなた離れ座敷では、お菊が、三味線を弾いている。

と、遥かの海上にあたって法螺の音が響き渡った。

「あッ」と驚いて弾く手を止め、スックとばかり立ち上る。

ボ――、ボ――、ボ、ボ、ボ――

それは正しく仲間の合図だ、しかも敵に襲われたという非常を知らせる法螺の音だ。

「さては住吉の海上へ、商船に装わせ、碇泊りさせた毛剃丸、捕方共に囲まれたと見える。これはこうしてはいられない」

パッと裳を蹴散らかしバタバタと縁へ走り出たがガラリと開けた雨戸の隙から、掛声もなく突き出された十手!

「南無三!」と、お菊は雨戸を閉じガッチリ閾をおろして置いて、今度は窃と足音を忍ばせ、丸窓の側へ寄って行く。

細目に障子を開けると同時に。

「ご用だ!」と鋭い捕手の声。

「もう不可い。手が廻った」

お菊は部屋へ帰って来ると、悪びれもせず端然と坐り、またも三味線を弾き出した。

ドンドンドンドン。

戸を叩く音が玄関の方から聞こえてくる。