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ちょうかきんむ

超過勤務

山本 周五郎

「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页

青空文庫

低いモーターのうなりが聞こえ、こんどはべつの架線が動きだし、彼の左側から金網の籠が進んで来た。彼はあっけにとられてそれを見まもり、籠は彼の頭上までくると停止し彼はあわてて手を伸ばした。こんどはあぶなくまにあい、そいつが浚渫機のように口をあけたとき、吐き出された書類を両手で受け取ることができた。籠は口を閉めて、ゆっくり元のほうへ戻ってゆき、彼はデスクの上を見まわしたのち、隅の物を押しのけて、その書類を置いた。

「やれやれ、受注の半沢もまだいたのか」と彼は云った、「これではきりがない、これ、――まあ待て、おちつくんだ、おまえのことを蔭では、いじらしい堪忍袋と云っているんだぞ、いじらしいだけはよけいだが、堪忍袋という綽名は悪くない、いまどき堪忍袋などといわれるには、十年や二十年の辛抱で、できるもんじゃない、おれは三十年、いや三十九年も勤めていて、それでもよく辛抱しぬいたからこそなんだ、役員だってこの綽名が耳にはいれば、停年の延長も考えてくれるだろう、おい木内、このいじらしい堪忍袋め、きさまもなかなか隅におけないやつだぞ」

彼はほくほくする