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ちょうかきんむ
超過勤務
山本 周五郎
「文藝朝日」朝日新聞社、1962(昭和37)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,619 字 · 31 页
「笑ったな、誰だ」彼は両手を拳にする、「さぞおかしいだろう、いくらでも笑え、さあ笑え、腹の皮のぶっ裂けるほど笑え、おれは怒りはしない、縁の下に三十年、はあ、はい、はい、こちらはにほん屋百貨店でございます、はい、はあいらっしゃいませ」
彼は片方へ向いておじぎをし、次に反対側へ向いておじぎをし、あいそ笑いとともに「はあ」と云って揉み手をする。
「この、はあ、と喉で声をころした調子を出すのは、おれが売場主任に提案したものは、はい、とはっきり発音するより、喉で声をかすらかすほうがいかにも恐縮しているように聞こえるからな、はあ、――」と彼は声を喉でころしてみせる、「この声を出すようになったとたんに、おれは人間性を放棄したんだ、どなられようが笑われようが、反抗はもちろん怒ることさえできなくなった、どんなに笑われたって怒りゃしないぞ、そのおかげでおれは輸入品整理部の副部長代理になったんだ、――副部長代理?」彼は考えてみて急に顔をあげる、「――部長代理ならわかる、副部長というのがすでに部長代理ということだろう、とすれば、副部長代理というのはなんだ、代理のまた代理か、人をばかにするな」