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あし

足

豊島 与志雄

「新小説」1925(大正14)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,967 字 · 8 页

青空文庫

彼はそれを指し示していた。

「どうも……汽車が揺れるせいか、かたっぽの足が滑りおちて、それも知らずに、ぐうぐう寝込んでしまいまして、恥しいお話です。けれど、そういうわけで、決して無作法な真似をしたのではありませんから……。」

彼は昨夜のことを弁解してるのだった。私は気の毒な思いをして、笑い話にしてしまおうとした。

「私はまた、あなたが落っこちでもされたら危いと思って、とんだお節介をしたんですが、初め……足が片方ぶら下ってるのを見た時は、喫驚しましたよ、お化かと思って……。」

「それは……まあ何とも……。」

彼は私の笑顔にも応じないで、真面目な憂欝な顔を崩さなかった。

「然し、癖もいろいろありますが、膝の下に物をあてがって寝るというのは、珍らしい癖ですね。ずっと以前からそうなすってるんですか。」

「もう五六年にもなりますかな……。私は慢性の胃病で、そのために足がだるい、そう医者は云いますが、どんなもんですか。……家内が心配してくれまして、膝の下に何かあてて寝たらよいと云うて、小さい厚布団を作ってくれましたんで、至極工合がよろしゅうて、それが習慣になりましてな、家では不自由しませんが、旅に出ると、よく困ることがあって、どうも……時々やりぞこないましてな……。