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あしのないおとことくびのないおとこ

足のない男と首のない男

坂口 安吾

「早稲田文学 第一三巻第七号」1946(昭和21)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,095 字 · 8 页

青空文庫

病院の院長をつとめてゐるやうに自然であつた。そして二人は非常に仲が悪かつた。犬猿もたゞならずとは二人のことで、なにがさて並の人間の十倍ぐらゐ口先の良く廻転する両名だから、悪口雑言、よくまアこんないやらしい言葉を掃溜から掻きまはして拾つてきたと思ふやうなことをおたがひに蔭で叩きあつてゐたのである。

御両名が仲が悪いのは尤も千万で、杉山英樹といふ先生は「バルザックの世界」といふ大著述を残したが、ちよつと読むとひどく面白いことが書いてあるやうだが、よく読むと何だかさつぱり分らなくなるので、たぶん杉山自身も、よく考へると分らんけれどもちよつと面白さうなことが三行に一行づゝ書いてあるから人間に読ませるならこれぐらゐでたくさんだと思つて威勢よく書きまくつたのだらうと思ふ。本質的な法螺吹であつた。何でも知らないといふことがない。何か人が話をしてゐると、ウム、それは、と云つて横から膝を乗り入れてくる。何でも知つてゐる。そして如何にも尤もらしく真に迫つて時々然るべき文献なども現れて疑ふべからざる論拠を明にしてくれるけれども、これがみんな嘘つぱちの出鱈目なのである。