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おどるびじんぞう
踊る美人像
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1930(昭和5)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,460 字 · 31 页
そして――用心が悪いから私が帰ったら後の扉を閉めて下さいよ――とか何んとか、泣いて居る糸子にお為ごかしに言って引揚げ、糸子が扉を締めて、元の卓子の前に戻った様子を、鍵穴から覗いて確かめた上、短銃の引金に絡んだ紐の端っこを、鍵穴を通して、向うの部屋から急に強く引いたのだ。短銃は発射する。紐の先は結えてないから、そのまま引かれて此方へ来る。証拠は毛程も残らずに、憎い相手は短銃に撃ち抜かれて死んだ――これで全部だ。そんなに事件がよく解って居るのに、何うしてあの晩の出来事を再演さしたかと言うのか。――それは斯うだ。あの犯罪はあまりに巧妙に過ぎて、とても一通りの女の考え出せる手ではない。智恵子に相違ないと理窟の表は示して居ても、万一違って居ては大変だ。そこであの、間の抜けた芝居を思い付いて、犯罪当夜の事をそのまま再演さしたのだ。どんなに気の強い犯人でも、自分の行った犯罪を冷静に二度繰り返せるものではない。私は智恵子の心の動きを見たかったのだよ」
花房一郎は斯う言って記者室を出て行きました。