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みがわりのはなよめ

身代りの花嫁

野村 胡堂

「少女倶楽部」1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,685 字 · 22 页

青空文庫

併し事件はそれだけでは済まなかったのです。先夜新郎新婦を乗せた自動車の運転手は、負傷がもとで死んでしまったのと、口紅に毒薬を仕込んであったことが、衛生試験所の方から知れた為に、警視庁と所轄警察署が大活動を開始し、その日のうちに、一人の青年を容疑者として挙げてしまったのでした。

それは、氏家竜太郎という若い技師で、詩子に何べんも何べんも求婚しましたが、詩子には春藤良一という許嫁があった為に、その都度断られ、詩子がいよいよ結婚することになってからは、内地に見切をつけて、満洲へでも行って、一生を托する大事業でも見付けようか――と言って居た青年だったのです。

何より悪い事に、詩子が怪我をした晩、十時から十一時まで何処に居たか、どうしても言わなかったのと、右手の甲に、ガラスの破片かなんかで怪我をしたらしい、大きな傷があったことでした。あれだけの衝突をさせたのですから、叩き付けた方の自動車も窓ガラス位は割れたでしょうし、ハンドルを持った竜太郎が、手の甲へ怪我をしたのは、誰が考えても、あまりに当然のことです。

これだけなら言いのがれる方法もあったでしょうが、毒薬入の口紅は、竜太郎の姉の昌子がお祝に詩子へ送った華麗な化粧函の組合の一つで、姉の部屋にあるうちに竜太郎には細工をする隙もあったわけですし、それに竜太郎は仕事