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ぐんようそ

軍用鼠

海野 十三

「新青年」博文館、1937(昭和12)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,659 字 · 37 页

青空文庫

コラコラ、服のところからもっと離れて居れッ」

老人は陽にやけた幅の広い背中をブルブル慄わせながら、故郷の方を向いて立っていた。

税関吏ワイトマンは、椅子のうしろから、大きな皮袋をとり出した。それは今朝からかかってレッドの鼠を検べるために拵え上げたものだった。彼はその皮袋の口を開いて、金網の籠の入口にしっかりと被せた。そして入口を開けると、籠の中の鼠をシッシッと追った。籠の中の鼠は愕いて開かれた入口から、ワイトマンの註文どおり皮袋のなかへと飛びこんでいった。

「うむ、これで二十匹、あとは……待て待て」

ワイトマンは腰をかがめて机の大きな引出をあけた。その中から一匹の美しいペルシャ猫ミミーが現れた。ミミーの首っ玉には翠色のリボンが結びつけてあった。そして小さな鈴がリンリンと鳴った。この可愛いい小猫は、ワイトマンの隠し女アンナから胡魔化して借りてきたものであった。悪人相手の税関吏は、かくのごとく実に骨の折れる商売だった。隠し女の一人や二人は許してもらわないと、大事な命が続かない。

ワイトマンは小猫のミミーを大きな手で掴んだまま、空になった籠のまわり――特に部厚い木を貼った籠の下半分に近づけた。