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ぐんようそ
軍用鼠
海野 十三
「新青年」博文館、1937(昭和12)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,659 字 · 37 页
原稿の第一字を認めた彼は、こんどはペンを取り直して第六行目のトップの紙面へ持っていった。いよいよ本文を書く気らしい。
「梅田十八は、夜の更くるのを待って、壊れた大時計の裏からソッと抜けだした。
真暗なジャリジャリする石の階段を、腹匍いになってソロソロと登っていった。
階段を登りきると、ボンヤリと黄色い灯の点った大広間が一望のうちに見わたされた。魔法使いの妖婆は、一隅の寝台の上にクウクウとあらたかな鼾をかいて睡っている。機会は正に今だった」
そこで梅野十伍は、左手を伸ばして缶の中から紙巻煙草を一本ぬきだし口に咥えた。そして同じ左手だけを器用に使ってマッチを擦った。紫煙が蒙々と、原稿用紙の上に棚曵いた。彼はペンを握った手を、新しい行のトップへ持っていった。
どうやらソロソロ彼の右手が機嫌を直したらしい、彼の頭脳よりも先に。
「――梅田十八は、恐る恐る大広間に入りこんだ。彼はよく名探偵が大胆にも賊の棲家に忍びこむところを小説に書いたことがあったけれど、本当に実物の邸内に侵入するのは今夜が始めてだった。そのままツツーと歩こうとするが、腰がグラグラして云うことを聞かなかった。