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かるいざわ
軽井沢
寺田 寅彦
「経済往来」1933年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,190 字 · 13 页
それが山腹から噴煙でもしているように見える。峰の茶屋のある峠の上空に近く、巨口を開いた雨竜のような形をしたひと流れのちぎれ雲が、のた打ちながらいつまでも同じ所を離れない。ここで気流が戦って渦を巻いているのであろう。
日によってはまた、浅間の頂からちょうど牡丹の花弁のような雲の花冠が咲き出ていることもある。それからまた、晴れた日に頂上が全く見えないことがあるかと思うと、雨の降るのに頂上までありあり見えることもある。この天然の大仕掛けの気象観測機械を利用することを知らない科学はまだ幼稚なものである。
グリーンホテルからの眺望には独特なものがある。常緑樹林におおわれた、なだらかなすそ野の果ての遠いかなたの田野の向こうには、さし身を並べたような山列が斜め向きに並び、その左手の山の背には、のこぎり歯というよりは乱杭歯のような凹凸が見える。妙義の山つづきであろう。この山系とは独立して右のかたはるかにそびえている雄大な山塊は八が岳であろう。ここから見て初めて八が岳の大きさ高さが納得できるような気がした。
ホテルの付近の山中で落葉松や白樺の樹幹がおびただしく無残にへし折れている。