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かるいざわ
軽井沢
寺田 寅彦
「経済往来」1933年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,190 字 · 13 页
そっと起き出して窓からのぞいて見ても姿は見えない。ひとしきり鳴くと鳴きやみ、あたりがしんとする。しばらくすると今度は一町ぐらい下のほうの池で鳴いているらしい。この水鶏が鳴いてからしばらくするとほととぎすが鳴いて通る。それがいつも同じ方向から鳴いて来て、また別のきまった方向へ鳴いて行くようである。それが通り過ぎてからしばらくすると、今度は宿の浴室のほうでだれかガーガーゲーゲーと途方もない野蛮な声を出して咽喉や舌のつけ根の掃除をする浴客がある。水鶏やほととぎすの鳴き声がいかにも静寂であるのに引きかえて、この人間の咽喉をせんたくする音が、なぜこんなにも不快であるのか、これも不思議である。鳥にはだれも初めから遠慮とか作法とかを期待しない、というせいもあるであろう。また、鳥の生活に全然没交渉なわれわれは、鳥の声からしてわれわれの生活の中に無作法に侵入して来るような何物の連想をもしいられないせいもあるであろう。蝉の声には慣らされるが、ラジオの※(「食+尭」、第4水準2-92-57)舌にはなかなか教育されるのに骨が折れる。
夕方歩いていたら、湯川の沢の蘆原の中で水鶏が鳴いていた。