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のうそん

農村

宮本 百合子

「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页

青空文庫

「お婆さん。何故、息子の処へ居ないんだい。

私は、かなり曲った腰と、鎌を石でこすって居る、今にもポキーンと骨のはなれそうにかさかさの手をながめながら云った。

「はい、お前様、うちの息子は皆正直ものでなし、けれど、此村の風で、自分の持ち畑とか田がなけりゃあ、働ける間、働くのがあたり前になっとるでない。

此の婆が、生れは越後のかなり良い処で片附てからの不幸つづきで、こんな淋しい村に、頼りない生活をして居るのだと云う事をきいて居るので、その荒びた声にも日にやけた頸筋のあたりにも、どことなし、昔の面影が残って居る様で、若し幸運ばかり続いて昔の旧家がそのまま越後でしっかりして居たら、今頃私なんかに「お婆さんお婆さん」と呼ばれたり、僅かばかりの恵に、私を良い娘だなんかとは云わなかっただろうなんかと思えた。

松の木の根元にころがして置いた「負籠」に刈りためた草を押し込むと、鎌をそのわきに差し込んで、

「甚助がさあ行って見ますべい。

と云うので、私も物珍らしい顔をして後から附て歩いた。その時まで、私は甚助って云う百姓の家はどれだか知らなかった。けれ共、それはすぐそこに裏口のある、私が先刻っから見つづけて居た子供ばかりの家であった。