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のうそん
農村
宮本 百合子
「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页
夏は、若い者共の泳場となり、冬は、諏訪の湖にあこがれる青年が、かなり厚く張る氷を滑るのであった。此等の池の美くしいのも只夏ばかりの僅かの間である。山々が緑になって、白雲は様々の形に舞う。
池の水は深く深くなだらかにゆらいで、小川と池の堺の浅瀬に小魚の銀の背が輝く。こうした生々した様子になると、赤茶色の水気多い長々と素なおな茎を持った菱はその真白いささやかな花を、形の良い葉の間にのぞかせてただよう。
夕方は又ことに驚くべき美くしさを池の面と、山々、空の広いはてが表わす。
暑い日がやや沈みかけて、涼風立つ頃、今まで只一色大海の様に白い泡をたぎらせて居た空はにわかに一変する。
細かに細かに千絶れた雲の一つ一つが夕映の光を真面に浴びて、紅に紫に青に輝き、その中に、黄金、白銀の糸をさえまじえて、思いもかけぬ、尊い、綾が織りなされるのである。
微風は、尊い色に輝く雲の片を運び始める。
紅と、紫はスラスラとすれ違って藤色となり、真紅と黄はまじって焔と輝く。
暗の中に輝くダイアモンドの様に、鋭く青いキラメキをなげるものがあれば、静かに、おだやかに、夢の花の様に流れる。