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のうそん
農村
宮本 百合子
「多喜二と百合子 七号~十三号」多喜二・百合子研究会、1954(昭和29)年12月~1955(昭和30)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,223 字 · 97 页
この人達は何故、私がそんな立派な御身分に見えるのだろうと思う。あんまり平常、尊がられもしず、往来を歩いて、私を知って見るものは一人もなく、自身も亦、知られるべき筈のものでないと思って居る私が、此処に来て持ちあげられると変な気がする。腹が立つのではないにきまって居るが、何だかいかにも皮肉な様な、間の悪い様な、くすぐったい気持がする。けれ共、あんまり自分達の世界と私達の世界を違えて考え、何の苦労も努力もしずにのらくらと暮して居る様に、馬鹿馬鹿しいほど云いたてると、仕舞いには私は腹をたてて仕舞う。その時も私は歩きながら大つまみに東京の生活振りを話してきかせた。皆は東京と云えば明るい方面ばかり見て居るので容易に私の辛い、みじめな生活の有様を信じない。
長い長い田圃道を通りすぎて町の一番はじにある傘直しの家の前へ来た時には、お互に気持のわかりにくい私共はもうだまり返って只セッセと歩いて居た。顔が赤くなって、赤い顔の中央から白い湯気の様な息が立って居る。お繁婆さんは、手拭を出して頸の廻りを拭いて居る。郡役所の下へ来た時にはもう、間の抜けた楽隊の音が聞え出し、停車場から荷物を持って来る配達が私の顔をにらんで通った。