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げいごうせざるひと
迎合せざる人
尾崎士郎の文学
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,320 字 · 5 页
その時代の文壇の王者として尾崎士郎が軍国主義者に担がれたことは、むしろ賀すべきことであったと私は信ずる。
なぜなら便乗迎合に汲々たる誰人かが彼の位置に代ったなら、お先走りをし、軍部の手先きとなり、積極的に侵略を謳歌し、鳴物入りで文学を戦争宣伝の具と化せしめて、文学を汚濁に落したであろう。
尾崎士郎には、ともかく軍部に屈しない気骨と節操とがあった。軍国主義者に積極的に協力するところは微塵もなく、その行き過ぎや迎合の世相に諷意をこめ、ある点まで直言することも辞さなかった。当時としては、それが精一ぱいであったろう。それ以上はどうにもならぬ限界があり、その先は、胸ふくれても、どうにもならず、そのモヤモヤを表現するに風景へ逃げこまざるを得ないような意味もあって、彼の当時の文章の過剰にすぎる風景詩やリリスムには、そのやむを得ざる彼の渋面を読みとることができるのである。
彼の文学が流行し、彼が文壇の王者となった理由は以上の如くであり、当時の彼の小説を精読するならば、この真相は判明する筈である。
繰り返し附言したい一事は、彼が本来反軍部的であり、非迎合的気質で、不服不満をある点までハッキリ直言し表明した素直な気質が、あべこべに軍人たちに愛好されたということだ。