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きんせいかいじんでん

近世快人伝

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页

青空文庫

面倒な。鰤さえ返せば文句はないか」

と云ううちに、店の天井からブラ下っていた鰤の半身を引卸して、片手ナグリに箒売を土間へタタキ倒した。

「持って失せれ外道サレエ。市場の人間を見損のうたか」

箒屋は剣幕に呑まれたらしい。鰤の半身も、持って来た丼もそのままに起上って、棕梠箒の荷を担いで逃げて行く奴を、追い縋った相棒が引ずり倒してポカポカと殴り付けた。商売物の箒が泥ダラケになってしまった。

その間に湊屋は黙って鰤の半身を拾ってモトの天井の釘へブラ下げるのを、居酒屋の因業おやじが奥から見ていたらしい。イキナリ飛出して来て仁三郎の前に立ちはだかった。

「その鰤は商売物ばい。黙って手をかけたからには、そのままには受取れん」

仁三郎は返事をしないままその鰤の半身をクフンクフンと嗅いでみた。

「親爺さん、悪い事は云わん。この鰤は腐っとるばい。こげな品物ば下げておくと、喰うたお客の頭の毛が抜けるばい」

「要らん世話たい。腐っておろうがおるまいがこっちの品物じゃろうが、銭を払え銭を……」

「ナニ。貴様もこの鰤が喰いたいか」

帰って来た相棒が割込んで来たのを仁三郎が慌てて押止めた。