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きんせいかいじんでん

近世快人伝

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页

青空文庫

「アハハハハ。馬鹿馬鹿しい」

「アハアハアハアハ。ああ苦しい。モウその話やめてエッ」

「イヤ。笑いごとじゃありません。鮫という魚は俗に鮫肌と申しまして、鱗が辷らんように出来ておりますけに、海の上の枕としては誠にお誂え向きです。しかし何をいうにも何十尋という巨大な奴が、四方行止まりのない荒浪の上で、アタリ憚からずに夫婦の語らいをするのですから、そこいら中は危なくて近寄れません。大抵の蒸気船や水雷艇ぐらいは跳ね散らかされてしまう。岸近くであったら大海嘯が起ります。その恐ろしさというものは、まったくの生命がけで、月明りをタヨリに、神仏の御名を唱えながら見ておりましたが……」

「……ああ……ああ……もうソノ話やめて……あたしゃ……あたしゃ死ぬるッ……」

「それから夫婦とも波の上で長うなって夜を明かしますと又、勇ましく潮を吹いて、鰯の群を逐いかけ逐いかけサムカッタの方へ旅立って行きます」

「サムカッタじゃない。カムサッカだろう」

「あっ。そうそう。何でも寒い処と思いました。ヒョットすると鯨の若夫婦が云うたのかも知れません。ネエちょいと……昨夜はカムサッカねえ……とか何とか……」