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きんせいかいじんでん

近世快人伝

夢野 久作

「新青年」1935(昭和10)年4月号~10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 79,469 字 · 157 页

青空文庫

よしよし。一つ大いに祝賀の意を表して、愉快に死んでやろう……。

奈良原翁は、その足で今一度役場に立寄って町長に面会した。

「オイ。町長。イヨイヨ俺も死ぬ時が来たぞ」

「ヘエッ。何か戦争でも始まりますか」

「アハハ。心配するな。今医者が俺を肺炎で死ぬと診断しおった。そこでこれは相談じゃが、香奠と思うて今月の俸給の残りの四円を貸してくれんか」

「ヘエヘエ。それはモウ……」

というので四円の金を握ると今度は酒屋へ行って、酒を一樽買って引栓を附けて例の四畳半へ届けさした。

その樽と相前後して帰宅した奈良原翁は、軒先の雨垂落の白い砂を掻集めて飯茶碗へ入れ、一本の線香を立て樽と並べて寝床の枕元に置いた。それから大きな汁椀に酒を引いて、夜具の中でガブリガブリやっているうちにステキないい心持になった。ハハア。こんな心持なら死ぬのも悪くないな……なぞと思い思い朝鮮征伐の夢か何かを見ている中に前後不覚になってしまった。

そのうちにチューチューという雀の声が聞えたので奈良原翁はフッと気が付いた。ハハア。極楽に来たな。極楽にも雀が居るかな……なぞと考えて又もウトウトしているうちに、今度は博多湾の方向に当ってボオ――ボオ――という蒸気船の笛が鳴ったので奈良原翁はムックリと起上って眼をこすった。