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ついおく
追憶
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,363 字 · 35 页
叔父は到頭亡くなって仕舞ったのであった。
「お叔父ちゃんが死んだんだって?
死ぬと云う事のはっきり分らない私は、勿論非常な悲しみも感じ得られなかった。
「おとといまで彼那にお話をして下すったお叔父ちゃんが死んじゃったって?
どんなんなったの。
え?
こわい事?
私はすべてが信じられなかった。
彼那強そうな体のお叔父ちゃんが勿論繃帯はして居たにしろ急に死んでもうじきお葬式をして埋めて仕舞うと云う事は、あんまり手順が早すぎる様な心持がした。
死ぬなんて一体どうなるものかしら妙な事だとより思えなかったのである。
私は母のするなりに黒いリボンをかけられ、あまり笑ったりはしゃいだり仕ない様にと云われるままに慎しんで居る丈だった。
この時分の心持を今私の目前に育って居る丁度同い年位の弟にくらべるとまるで及びも付かない程私の心は単純であった。
彼は第一もう「ああちゃん」などと云う言葉は五つにならない位からやめて居るし、人が死ぬと云う事に対しても、勿論空想化されては居ても非常に或る丁重な感じと悲しみを感じ得る心になって居る。
そして世の中には死ぬと云う事が有るべきものと云う迷わない断定も持って居るので、其の時の私の様に死ぬと云う事が殆ど分らないと云う様な事はないらしい。