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ついおく

追憶

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,363 字 · 35 页

青空文庫

私は生れて始めて見た死人の顔にすっかり怯えると同時に、死と云うものに対して極端な恐怖と嫌悪を感じ出した。

此の妙な人の仕た一事によって七つの子の死に対する無邪気さは私の心からあらかた持ち去られて仕舞ったのである。

彼那恐ろしげな顔をした形をした者共が好い事をしたからと云って一所へ集ったって何で奇麗な事が有ろう。

一体何故人は死ななけりゃあならないのか。自分も彼あ云う風にきたなくなって仕舞わなけりゃあならないのか。

死ぬなんて何と云ういやなこわい事だろう。私は自分の死と云う事さえ遙かに想像する程になった。

そして、この時に起ったこの心の激変――子供心の非常に動かされた死に対しての観念は長い間私の心の奥に潜んで居て四五年立ってから不思議な力を以て、更に思いがけない今の私には殆ど夢の様な反対の方向に私を動かして居たのである。

彼の荒武者の様な男の人の様子は種々な意味で私の記憶に明かに残って居る。

何の為に彼那妙な事をする気になったのか。其の人の事を思うと一種異様な感じが私の胸に突き上って来るのである。

斯様にして彼は死にやがて葬むられたのである。

彼を知って居る者は皆彼の不運を歎いたけれ共其の死に様に関して唯一人の疑いを挾む者もなかった。