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さかだちのおおやけ・わたくし
逆立ちの公・私
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年2・3月合併号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,598 字 · 9 页
されて還って来た兵士の精神の苦悩を、どこまで理解しているであろうか。
復員兵士が犯罪へ転落するには、様々の動機があろう。けれども、新聞に「俺たちに、義理も人情もあるものか」と捨科白した記事がのった、一部の不幸な嘗ての兵士は、遠くない過去において、紛れもなく義理も人情もない扱いをうけて来た自覚をもっていることを意味する。その声は、不幸を一層不幸にする社会性の乏しい憤りにまかせて、同じ苦にある人民仲間に向けられたのであった。
こういう公私の逆立ちは、軍需生産で儲けた人々の全生活を支配した。食糧問題、それにからむ土地問題、住宅問題、失業問題、道徳の頽廃の諸相。それは、引つづいて日本の社会を混乱させる公私逆立ちの形として現われている。支配者たちは、人民の公器たる政府の実力で、これらの大課題を、どのように公的に処置しつつあるだろうか。私たちの毎日の現実に立って答えるならば、政府は、愕くほど私的になっている。政府そのものの命脈を保つこと、その成員の姑息な差しかえ、G・H・Qとの汲々たる妥協策。今日猶まことに壮健である財閥の七変化的存在への助力。戦時利得税、財産税についての解説一つでも真面目に聴いたらば、人民は、曖昧な日本的薄笑いを口辺に浮べてはいないと思う。