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とじょう

途上

谷崎 潤一郎

「改造」1920(大正9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,060 字 · 32 页

青空文庫

―――

「ですからあなたは、或る一定の偶然の危険の中へ奥様を置き、そうしてその偶然の範囲内での必然の危険の中へ、更に奥様を追い込んだと云う結果になります。これは単純な偶然の危険とは意味が違います。そうなると果して電車より安全かどうか分らなくなります。第一、あの時分の奥様は二度目の流行性感冒から直ったばかりの時だったのです。従ってその病気に対する免疫性を持っておられたと考えるのが至当ではないでしょうか。僕に云わせれば、あの時の奥様には絶対に伝染の危険はなかったのでした。択ばれた一人であっても、それは安全な方へ択ばれていたのでした。一度肺炎に罹ったものがもう一度罹り易いと云うことは、或る期間をおいての話です」

「しかしですね、その免疫性と云うことも僕は知らないじゃなかったんですが、何しろ十月に一度罹って又正月にやったんでしょう。すると免疫性もあまりアテにならないと思ったもんですから、………」

「十月と正月との間には二た月の期間があります。ところがあの時の奥様はまだ完全に直り切らないで咳をしていらしったのです。人から移されるよりは人に移す方の側だったのです」